| 観世音寺・戒壇院・太宰府政庁跡は、太宰府天満宮から西南へ歩いて約２０分の距離です。天満宮はいつも参拝客で賑わっていますが、観世音寺周辺まで足を伸ばす観光客は少なく、万葉、天平の時代を思いながら散策するのに最適なエリアです。 観世音寺は、天智天皇が筑紫の国で亡くなった母帝斎明天皇を祀るために６６２年に建立を発願しましたが、壬申の乱などが起こり、８０余年後の７４６年に落成しました。西日本の寺院の中心でした。 落成法要から約８００年間は、方３町(324メートル四方)の境内に七堂伽藍が建ち並ぶ豪壮な寺院でしたが、その後、火災や台風などのために創建当初の建物は全て失われました。 天正15年(1587)には九州遠征の豊臣秀吉に寺領を奪われ、荒廃した時期もありますが、江戸時代に再建されました。しかし、規模は小さくなったそうです。 現在は１００メートル四方の境内に講堂、金堂、鐘楼が建ち、樟や楓、椋(むく)など多くの樹木が茂り、万葉時代の雰囲気に浸れる空間となっています。 観世音寺の拝観料は無料です。 （ただし、宝蔵(重要文化財の多くの仏像を収蔵)拝観料は500円です） |
| 観世音寺周辺の空地には、雑草に混じって菜の花が咲いていました。 中央左のの建物は、観世音寺の宝蔵です。庭に４本のメタセコイアの木が高く聳えています。 |
| 広い草地の中に小道が通っています。一千年前の風景がそのまま残っているかのような、のどかでひなびた風景です。 後ろの山の中央の尖っているところが岩屋城跡です。 （岩屋城については、岩屋城の戦いのページをご覧ください。） |
| 観世音寺周辺の老木の枝の先に新緑が伸びてきました。 ここにも春の息吹が感じられます。 |
| 観世音寺入口。 |
| 参道は樟の並木道です。 |
| 参道から東側の宝満山が眺められます。頂上近辺(場所は確定していない)に宝満山城が建っていました。 |
| ４本のメタセコイアが屹立しています。 右の３本はなぜこんなにも高さがそろっているのでしょうか。まんなかの木は両側に挟まれて、枝も伸ばせずに窮屈そうで幹も細いですが、同じ高さに伸びています。まるで兄と弟に挟まれて窮屈に生きながらも、まっすぐすくすくと育った私を見るようで、涙が出てきました。（というのは真っ赤なうそです。涙は単に花粉症のせいでした。） それにしても、なぜこんなに空に向かってまっすぐ伸びるのでしょうか。 |
| 観世音寺の境内に歌碑があります。 右は長塚節(たかし)、真ん中が山崎斌(あきら)の歌碑です。 |
| 長塚節の歌碑 「手をあてて鐘はたふとき(尊き)冷たさに 爪(つま)叩き聴くそのかそけきを」 作家の長塚節は明治４５年(1912)、結核治療のため福岡に来て、九大病院に入院しました。 大正３年(1914)晩秋にも寺を訪れ、上記の歌を詠みました。 翌年２月、３６歳の若さで亡くなりました。（戦前は結核は不治の病といわれていました。） |
| 山崎斌の歌碑 「筑紫なる遠の御門の跡どころ かんぜおん寺の鐘けさもなる」 山崎斌は長野県の生まれで、島崎藤村に師事し、若山牧水や北原白秋とも親交がありました。 「草木染」の命名者で、草木染を世に広めました。 |
| アセビの木の傍らにホトトギス同人で、近くの仏心寺を建てた河野青雲師の句碑が建っています。 「秋訪(と)えば 秋のこころに観世音」青雲 |
| 国宝梵鐘 白鳳時代に鋳造されました。 糟屋郡多々良で鋳造された、と記されています。「たたら」の名が示すようにここで古代に製鉄が行われていたのですね。 京都妙心寺にある鐘には、文武２年(698)糟屋で作ったと鐘の内側に鋳込まれています。筑紫の糟屋で造られて、いつの頃か京の都へ移されたのでしょうね。 観世音寺の鐘は無銘ですが、この鐘と同じ鋳型を使って造られた兄弟鐘です。観世音寺の宝蔵の拝観券には「梵鐘国宝（白鳳時代)６８１年」と記されています。こちらの鐘がお兄さんということでしょうか。 どちらにしても1,300年余を生き長らえてきた、いまだに現役の日本最古の鐘です。 |
| 一段と高くなったところに鐘楼が建っています。（南東側からの眺め） |
| 鐘楼にはまわりに金網が張ってあるので、長塚節の歌のように爪で弾いてかそけき音を聴くわけにはいきません。しかし、今でも大晦日の除夜の鐘など、1,300年の鐘の音を聴くことができます。 高さ160センチ、口径86センチ。 |
| 白鳳時代の模様。 唐草模様が新羅のものと似ていることから、新羅文化とのつながりも見れるそうです。 |
| 1,300年余の間に、はたして何回撞かれたことでしょうか。 |
| 北側からの眺め。 菅原道真公の詩の一節 「都府楼纔看瓦色 観音寺只聴鐘声」 （都府楼は纔（わずか）に瓦の色を看る 観音寺はただ鐘の声を聴く） 道真は太宰府に左遷され、配所(榎社)を一歩も出ることなく、歌を詠んで自らを慰めました。 延喜3年(903)2月25日 59歳 失意と望郷の思いの中で病没。 延喜5年(905) 埋葬された地に墓所と神殿(太宰府天満宮)が創建されました。 左遷の経緯については太宰府天満宮のページの 菅原道真公略歴 の項目をご覧ください。 |
| 境内にはあちこちに梵字を彫った石や礎石が残っています。 |
| 五重塔の心礎。 五重塔は今はありません。 |
| 境内の木の根は露出して地上を這っています。 寺は何度も台風や火事で倒壊焼失しているので、土の中はそれらの遺物でいっぱいで、根が地中に入れないのでしょうか。 |
| 本堂(講堂)。 現在の本堂は、金堂と同じく江戸時代初期(元禄元年(1688))に黒田家によって再建されたもので、当初の建物より規模が小さくなっているそうです。 |
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| れんぎょうと観世音寺。 れんぎょうの黄色い花があちこちで春の陽に輝いていました。 |
| 天平石臼「展磑(てんがい)」 大きな石臼ですね。これを回すのに何人必要なのでしょうか。 |
| 境内の一画には石の地蔵などが集めて置かれていました。 |
| 本堂。西側からの眺めです。 |
| 本堂前面。 |
| 本堂正面。 |
| 「観世音寺」の扁額 |
| 金堂に木漏れ日が射し込んでいました。 右側の礎石は奈良時代からここにあるのでしょうか。 |
| 観世音寺は太宰府政庁と興廃を同じくしてきました。 現在、本堂(講堂)、金堂(阿弥陀堂)、鐘楼、宝蔵(収蔵庫)があり、五重塔心柱の礎石、南門、中門などの跡が残っています。 |
| 宝蔵には平安、鎌倉時代初期の仏像１７体が安置されていて、５メートルを超える仏像も３体あります。いずれも国の重要文化財に指定されています。 |
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| 宝蔵に展示してある仏像の一覧表 5メートルの仏像には圧倒されます。 このあたりは観光客も少なく、平安時代の仏像と静かに対面することができます。 拝観は有料です。 |
| 観世音寺裏(北側)の僧院跡。 観世音寺僧坊は６棟からなっていましたが、この僧坊跡はそのうちの大房跡だそうです。 （長さ102メートル、巾10メートル） 礎石は復元配置されたもので、本来の礎石ではありません。（と、説明板に記されていました。） |
| 観世音寺裏(北側)の僧院跡。 この地で立派な僧をめざして、多くの人々がきびしい修行に明け暮れたのでしょうね。 |
| 江戸時代、庚申信仰がはやったときの名残でしょうか。 |
| 宝蔵の西南にあるアセビ(馬酔木)が満開でした。（４月中旬） |
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| アセビ(馬酔木)の花は、まるで真っ白なかわいい釣鐘のようです。 |
| 境内にきれいな椿の花が咲いていました。（３月下旬） |
| 境内の樟の大木は、深緑の葉が残っていますが、これから若葉と入れ替わります。 |
| (1)僧正玄昉(げんぼう)と藤原広嗣(ひろつぐ) 藤原一族で最大の政治家(藤原鎌足の子)不比等(659-720)が、藤原氏隆盛の基盤を築き、続いて不比等の４人の息子(藤原四兄弟)が政権を継続(729-737)し、政敵の長屋王(皇族でない不比等の娘が皇后になることに反対していた)を死に追いやり、藤原氏の最初の黄金時代を築いた。（長屋王を支持した大伴旅人も太宰府に左遷された。） しかし、当時はやった疫病(天然痘)で四兄弟が相次いで亡くなってしまい、藤原四子政権は終わった。藤原広嗣は藤原四兄弟のひとり、宇合(うまかい)の嫡子である。 この機に橘諸兄(もろえ)が右大臣となり、吉備真備(まきび)、玄昉らとともに反藤原勢力が朝廷内で勢力を持ち始めた。 奈良、平安時代の政治は藤原氏と反藤原氏の争いの歴史といえる。 玄昉(?-746)は阿倍仲麻呂、吉備真備らとともに遣唐使に学問僧として随行し、１８年間唐で法相を学び、735年帰国した。聖武天皇の母親藤原宮子の病を治癒したことから天皇の寵愛を受け、政治に深く関与した。（人々は仏道を逸脱するものと憎んだ。） 橘諸兄らの反藤原勢力が勢力を持ち、藤原広嗣は天平10年(738)12月に太宰府に左遷された。 広嗣は天平12年(740)8月末に上表文を都に送り、橘諸兄らの失政を糾弾し、玄昉と真備の追放を言上した。その数日後に筑紫で挙兵し政権奪取を目ざしたが、約２か月後に朝廷軍に捕らえられ、松浦の唐津の地で斬首された。（唐津市鏡山の地）。 その５年後、中央では藤原不比等のもう一人の孫、藤原仲麻呂が勢力を持つようになり、玄昉は天平17年(745)11月に筑紫観世音寺別当に左遷され、所領や財物も没収された。 翌年6月、太宰府観世音寺落成供養の日、僧正玄昉が輿に乗って供養しているとき空に声がして、その身が突然消え失せた。後日興福寺(藤原氏氏寺)の唐院に玄昉の首が落ちてきた。当時の人は、藤原広嗣の亡霊に殺されたと噂した。 この話は当時のいくつかの書誌に記されています。藤原派が玄昉を討ち、仇の首を氏寺の興福寺に供えたことを伝えているものと思われます。こちらの墓が胴塚で、奈良市高畑町にある頭塔(ずとう)が玄昉の首塚だといわれています。頭塔は、玄昉の霊を鎮めるためか、ボロブドゥール形式の、一辺３２メートルの方形、七段の大きな墓です。 |
玄昉の墓。 (2)吉備真備(695-775) 玄昉とともに717年唐にわたった吉備真備は、18年後(735)に帰国(真備、玄昉らの乗った船だけが種子島に漂着して帰国でき、あとの３艘は遭難した)し、その後玄昉とともに橘諸兄の下で政権を担った。 しかし、藤原仲麻呂の台頭により、750年に筑前守(次いで肥前守)に左遷された。唐津の地で斬首された藤原広嗣の霊を鎮めるために、唐津の鏡神社に二ノ宮を建立した。 752年に遣唐副使となって(海の犠牲になってもかまわないとの藤原氏の策略)ふたたび渡唐し、翌年高僧鑑真をつれて帰国した。（帰りの航海も暴風により、鑑真と真備の乗った船は屋久島に漂着し、危うく命を落すところであった。）鑑真は実に６回目の挑戦でようやく日本に到着することができた。 いっしょに帰国しようとした阿倍仲麻呂の船(遣唐正使も同乗)は安南(ベトナム)に流れ着き、帰国はかなわなかった。 真備はその後も京の都に復帰することはできず、754年太宰少弐、759年太宰大弐(次官)として、学校院の設立や、唐の内乱に対応して伊都城を築いたりしている。 ところが、孝謙女帝が僧の道鏡を寵愛、重用するにおよび、長く権力を持っていた藤原仲麻呂の力が弱まった。このため真備は764年造東大寺長官として帰京した。実にこのとき70歳であった。 764年秋に藤原仲麻呂(恵美押勝)は反乱を起こしたが、真備を中心とする朝廷軍に鎮圧された。真備はこのあと右大臣となって、道鏡とともに政権を握り、775年80歳で亡くなった。当時としては稀な長寿です。 （皇位につこうとした(といわれる)道鏡も、ご存知のようにすぐその後に失脚することになります。） 学者から大臣の地位に昇進したのは、吉備真備と菅原道真だけです。道真公は神様になりましたが、真備は道鏡とともに政治を行い、道鏡を諌めることもなかったため人気がないともいわれています。しかし、暦の大家であり、カナ文字を作るなど、偉大な人物であったことはまちがいありません。 この偉大な暦の大家(ということは天文学者であり、占いの大家でもあり、当時の最先端科学者だった)を、後の陰陽道隆盛の元祖とする物語も作られました。 （ものがたり） 帝は暦を正しいものにするため、唐の国より陰陽道の秘伝書「金烏玉兎集」を手に入れて帰るよう安倍仲麻呂を派遣した。仲麻呂は、唐の玄宗の奸臣、楊国中(楊貴妃の親戚)と安禄山(将軍、後に反乱を起こした)に邪魔され、幽閉された高楼で憤死した。連絡もなくいつまでも帰ってこない仲麻呂は、忠誠心を疑われ、所領没収、家族は追放された。 （実際は唐の朝廷に仕えながら学問を修め、一度帰国の途についたが、船が安南(ベトナム)まで流され、ついに帰国できなかった。この間に国内では、仲麻呂は日本のことを忘れた人でなしだという声が起こり(いつの時代でも、事実を知らないのにいい加減なことをいう人がいるとみえます)、実際に一時、所領を没収された。） 次に派遣された吉備真備はその才能を玄宗に認められ、秘伝書を受け取ろうとするが、またしても２人の奸臣に鬼の出る高楼に閉じ込められた。しかし、鬼といわれたのは、仲麻呂の怨霊であった。 囲碁の勝負を申し渡された真備は、仲麻呂の怨霊の力を借りて勝つことができ、危機を脱した。 次には「野馬台(やまたい)の詩」の解読を命じられた。縦に１０文字、横に１０文字、計１００文字の漢字が並んだ表があり、それを解読するのである。どこから始まり、どこにつながっていくのかまったくわからない。そのとき、天井から小さな蜘蛛が下りてきて、漢字の上を這って読む順序を教えてくれ、真備はみごとに解読することができた。蜘蛛は観世音菩薩の化身であった。 玄宗は秘伝書を渡すよう命じ、奸臣２人は港まで追ってきたが、ついに真備は陰陽道の秘伝書「金烏玉兎集」をわが国に持ち帰ることができた。 真備はこの書を安倍仲麻呂の子孫を探し出して渡すよう遺言した。 時は流れ、吉備氏は加(賀)茂氏と改姓した。 やがて真備の子孫に加茂忠行、保憲(やすのり)という陰陽道の大家が現れ、ついに安倍仲麻呂の子孫を探し出し、陰陽道を伝授し秘伝書を渡すことができた。その童子は日本最高の陰陽師となった。安倍晴明である。 「安倍晴明物語」や「ほき抄」等の物語りです。史実とは異なっています。 なお、真備が帰朝した船に「九尾(きゅうび)の狐」が潜んでいて、日本に潜入したとの話も伝わり、多くの小説の題材となっています。 |
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宝篋(ほうきょう)印塔は中世のものとのことです。 (3)阿倍仲麻呂(698-770) 玄昉、吉備真備とともに717年入唐した阿(安)倍仲麻呂は、唐の大学に入学、科挙の試験に合格し、玄宗皇帝に仕えた。 文学にも長じ、唐の詩人李白や王維らとも交友があった。 18年後(733)に日本から遣唐船がやってきたとき、仲麻呂はもっと唐で学問を続けるため帰国しなかった。（真備、玄昉はこのとき帰国した。）玄宗皇帝が帰国を許さなかったともいわれる。 その後も唐の朝廷で活躍したが、752年に次の遣唐船がきたとき、帰国することにした。在唐すでに35年になっていた。翌年(753)日本に向けて出向した船団は暴風に遭い、鑑真と真備の乗った船だけが屋久島に漂着してなんとか帰国できたが、遣唐使藤原清河と阿倍仲麻呂を乗せた船は安南(ベトナム)に流れ着き、２年後に(755)ようやく長安に帰り着いた。その後も安南節度使となって、今のベトナムのハノイで総督を務めるなど活躍した。しかし、帰国がかなわないまま異国の地で、770年にその73年の生涯を終えました。 「天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に いでし月かも」 仲麻呂が長安で、生まれ育った故郷を思いつつ歌ったものといわれています。 |
| 竹垣。 木や竹など自然のものには心がなごみます。 |
| 観世音寺境内の南大門跡。 参道の横に数個の礎石が残っています。 |
| 大宰府の学校院跡のビラカンサス 大宰府政庁の東側にあります。 西国の役人を養成する機関で、国司、郡司の子弟が学びました。780年ごろには約200人の学生が集まっていたそうです。 赤い実をつけている木は「ピラカンサ(ス)」(ときわさんざし)で、５月には白い花をつけます。 |
| (参考資料) 「太宰府の本」太宰府市発行 「歴史と旅 日本史ライバル総覧」秋田書店 |
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